工芸
工芸は、今日では大量生産など工業手法の発達にもよって、一般向けの安価で実用のみを求める器物は大量生産品で賄い、特に趣味性や意匠性、あるいは美術性が求められる分野などで多大なコストを掛けて製作される器物を工芸品、それを作る行為を工芸といった具合に住み分けが行なわれている。
ただ、時代を遡り産業が今よりもっと素朴であった頃には、全ての工業製品は家内制手工業など職人が一点一点制作するものしかなかった訳で、この時代においては趣味性や美術性を求める高価な工芸品から、実用一辺倒の安価な工芸品まで様々なものが存在していた。こういった時代においては、美術性を求め鑑賞に堪えるものを上手物(じょうてもの)と呼び、簡素な一般向けのものを下手物(げてもの:→ゲテモノ)と呼んだ。ただ、下手物であっても実用に足る工芸品はそれなりの価値を持ち、民具としてなど実利的な使われ方をしながら世代を超えて使い続けられもして、中には骨董品として現存するものも少なくなく、いわゆる「生活骨董」の分野ではこういう時代を経て利用されてきた工芸品を珍重、高値で売買する市場も存在する。
現代における工芸では、それを制作する行為そのものを実利を求めない趣味と位置付けて行なうもの、あるいは高度な美術性を実用品に盛り込むための創作活動(美術工芸)、また伝統文化として過去の工芸技術の伝承・復興などが行なわれている。また、過去に一度衰退して失われた技術と化した工芸技術の再現などの活動も見られる。
いずれにしても、工芸はこと伝統産業などの確立された分野では、ある程度の分業体制がとられることもあるが、幾つもの工程を一人の職人が通して行なったり、ものによってはそのほとんどを独力の手作業で製品が作られる。趣味によるものは兎も角としても、業態としての工芸では素材(材料)の選定から様々な工程において人件費が多く掛かる傾向にあり、故にその製品も高価となりがちである。しかし工芸によって成される高度な美術性、あるいは素朴であったり個性的であったりといった要素が好まれ、これに対して対価を惜しまない愛好者・好事家などに求められている。